2012/08/21

TED "共感に関する過激な試み" サム・リチャーズ

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サム・リチャーズは架空の歴史上の話 - 100年前の世界で中国がアメリカの石炭を重要なエネルギーと見なし、石炭を目当てに支配を強めるシナリオ - を使って、聴衆の共感を呼びます。多くの聴衆が石炭目当てにアメリカ国民を人とも思わないような行動を取る中国に対して怒りを覚えたでしょう。
この話には仕掛けがあって、「中国をアメリカ」に「アメリカをイラク」に変えてみると、現在の石油をめぐる中東情勢の実情を伝えるものとなります。
イラクについて聞かれて「でも石油は必要だ。暖房を切るなんてとんでもない」と言っていた今までは、共感どころか考えもしていなかったという事実を突きつけます。
架空のシナリオと現在の中東情勢を重ね合わせる事で、イラクの人の立場で考えやすくなった聴衆に対してイラクの人から見たアメリカ人のイメージを想像させます。
・石油目当てで支配階級に取り入る悪い奴ら
・キリスト教こそ正しいと考え、イスラム教を弾圧する悪魔
・石油とキリスト教のためなら人殺しも正義と考える連中

彼は最後に二枚の写真を見せて、想像するよう言います。
一枚目は 軍人の恋人が死に、国旗を受け取っている写真です。
自分が100年前の中国が支配する時代にいるとします。
写真に写っているのは全員中国人、アメリカの石炭に関する暴動で恋人が死に、中国の国旗を受け取っています。敵対するアメリカ人としてこの写真・この場面から何を感じますか?
そして現代に戻って、米軍兵士と中東で恋人を失ったアメリカ人女性の写真だと思ってください。
ここでもう一度イラクに住むイスラム教徒の立場になって、この写真・この女性についてどう思いますか?

二枚目は アメリカ軍に捕まった反乱軍の兵士の写真です。
アメリカ人を殺した彼らを絞首刑にしたいと思いますか?共感するのは難しくないはずです。
次は反乱軍の兵士になってみてください。
彼らは残忍な殺人者でしょうか?彼らの国で起こっている事への怒りと恐怖を感じる事ができますか?彼らはよき父親であり、朝子供を抱き上げ「お前の未来のために行ってくるよ。必ず戻ってくる。」と言ったかもしれません。想像する事ができましたか?難しいですか?

このような例を取り上げたのは、敵対する相手の事を想像するのが最も難しいからだと言います。
イラクの人たちの事をほんの少しだけでも理解する事ができれば、思春期の息子や追い越し車線をノロノロ運転するドライバーといった日常のできごとに共感して理解するのはとても簡単な事です。
他の人に共感し、その視点で考える。異なる意見に耳を傾ける。そうすることでいつの間にか世界が違って見えるようになります。生活のすべてが変わります。それが大切な事なのです。


このスピーチは、なぜアメリカが世界中で嫌われているかを端的に教えてくれます。
幼稚で身勝手な正義を世界に押し付け、相手の気持ちを全く考えようともしない。世界中の - アメリカ人以外の - 誰もが知っている事です。スピーチの後にスタンディングオベーションが起こらなかった事を見ると、この試みはまだまだ受け入れがたい過激なものだったという事でしょうか。
中東の石油に頼り、どちらかというとアメリカ寄りの報道が多い日本人にとっては身につまされるスピーチだと思います。

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