2013/10/26

【書評】誰も戦争を教えてくれなかった/古市憲寿

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この本は全6章とおまけで構成されています。1章ではアメリカと中国の戦争博物館と比較する形で日本の歴史博物館の特殊さを指摘し、2章ではその違いは敗戦国特有のものなのかという疑問を抱き、ヨーロッパへ。そこでイタリアに対する意外な事実に気づきます。3章は中国、4章では韓国の博物館を巡り、5章では日本の博物館のあり方と、記憶の継承について考え、6章のまとめという風になっています。

この本の最も重要な指摘は、260p(6章)の
僕たちは「ノーモア関ヶ原」を笑って片付けることができなくなる。第二次世界大戦のような戦争を思い浮かべて「戦争反対」を声高に叫ぶ事は、「ノーモア関ヶ原」とそれほど変わらない。関ヶ原の戦いと同じくらい、アジア・太平洋戦争のような総力戦が再び起こる確率は、どうにも低そうだ。
という箇所に見事に表現されていると思います。
「あの戦争」を二度と繰り返してはならない。という強い思いから生まれた継承の方法により、多くの人が「国を挙げた総力戦によって大きな被害が発生し、一般市民の生活が脅かされ火垂るの墓のような悲劇が生まれる」という戦争観を持つようになりました。戦争の被害者の追悼という面では大切なことかもしれませんが、一方で世界のどこかで今も起きている、新しい小さな戦争に対する想像力を失わせてしまいます。

授業や本から学んだ(主に第二次世界大戦の)戦争に対する知識、世界中で小さな戦争が起きている事、テロリストの活動が盛んになっている事、民間企業による戦争ビジネスの規模が拡大している事、無人戦闘機や遠隔操作ロボットの開発競争、これらの事実は知っていましたが、関連づけられる事はなかったので、目の覚める思いでした。

「僕たちはノーモア関ヶ原を笑えない」という結論が目に鮮やかに感じられるのは、親しみやすい文体のおかげで著者の旅を追体験をするような感覚で読み進めることができるからだと思います。途中「古市さんフワフワしすぎだろ!」と思う箇所もありましたが、まるで自分が体験しているかのように関ヶ原ウォーランドの展示にツッコミを入れ、考察をはさんだ後で「さっきのツッコミブーメランだった!」と気づくという珍しい読書体験に感動すら覚えました。

自明のものだと思っていた戦争に対する考え方が、戦勝国/敗戦国どころか国によって全く違う事。日本の展示は(主に政治的な理由から)無味乾燥で面白みのない展示が多いが、他の国では楽しさや分かり易さの点でかなりの工夫がされている事。それでも若年世代の戦争に対する関心は総じて低く、記憶の継承が難しい事など、戦争に対する新しい見方を提示してくれる良書だと思います。

おまけとして「ももいろクローバーZ」との対談も収録されているので、ファンの方はそれだけでも買う価値があるのではないでしょうか。(すごくよく燃えたとも聞きますがw)

株式会社ゲンロン『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド 思想地図β vol.4-1』や、鈴木謙介『ウェブ社会のゆくえ― 多孔化した現実のなかで』を併せて読むと、より理解が深まるのでおすすめです。


誰も戦争を教えてくれなかった 古市 憲寿

内容(「BOOK」データベースより)
アウシュビッツから沖縄まで。世界のあちこちに存在する戦争博物館と平和博物館。僕はずっとこれらの博物館をめぐっている。若者と国家の、そして戦争の距離はどれだけ遠いのだろうか。博物館で残される「記憶」に意味はあるのだろうか。徹底的に歩いて考えた、28歳社会学者の本格「戦争」論!

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