ダークツーリズムを実践する機会があったので、その話を書きます。まず、ダークツーリズムとは。
ダークツーリズム(英語: Dark tourism)とは、災害被災跡地、戦争跡地など、人類の死や悲しみを対象にした観光のこと。ブラックツーリズム(Black tourism)または悲しみのツーリズム(Grief tourism)とも呼ばれている。タナツーリズム(Thanatourism)は[1]、古代ギリシア語で神格化された死を意味するタナトスに由来するが、これもダークツーリズムに関係しているものの、暴力的な死をよりはっきりと示す時に使われ、より限定的な意味で使われる。観光とは一般に娯楽性のあるレジャーの1つだが、ダークツーリズムでは、学びの手段として捉える。 (Wikipediaより)
2011年の東日本大震災以降注目されている言葉で、2013年の流行語大賞にもノミネートされています。Wikipediaの説明だとかなり大仰に感じますが、修学旅行で広島の原爆ドームや沖縄のひめゆりの塔を観に行くのもダークツーリズムの一つだと言われれば、身近に感じられるのではないかと思います。
実家に帰省した際に、近くにある「紫電改展示館」へ行ってきました。紫電改というのは旧海軍の戦闘機で、墜落して近くの海に沈んでいたものを引き揚げ、展示してあります。これまでも何度か来た事があるのですが、ダークツーリズムという言葉を知って訪れた今回が一番真剣に観たと思います。慰霊碑や同僚の航空隊員から贈られた桜の木の存在に初めて気がついて、言葉を知る事で見方が変わるというのはあるんだなと自分でも驚きました。
その事以上に衝撃だった事は、実は紫電改展示館を訪れる目的で出かけた訳ではなく単なる偶然だったことです。実家に帰省したのはいいですが、毎度の事ながらする事も特になく暇です。そこで車を借りて、海を観に行く事にしました。車で20分くらいの山の上に宇和海展望タワーという施設があり、リアス式海岸の穏やかな海を一望することができます。麓には公園もあり、小学校の頃の遠足の定番だったなーなどと考えながら車を止めると、駐車場のすぐそばに小さな建物が。すっかり忘れていましたが、ここには「紫電改展示館」が...という具合です。
ダークツーリズムには「軽薄な欲望によって人を動かすことができる」という利点があります。人は忘れる生き物です。戦争や震災のような大きな出来事でも、話題にならなければ興味関心を持ち続ける事は難しい。記憶を継承するような施設をただ作っても、わざわざ足を運ぶのは、真面目な少数の人だけ。しかしそこに「ツーリズム」的な要素があれば、美しい景色が見られるから、美味しいものが食べられるから、ショッピングができるからという理由で人は足を運びます。
私も紫電改展示館を見つけたときは、そんなに真剣に展示を見るつもりはありませんでした。正直なところ、友人が韓国の戦争博物館を訪ねるダークツーリズムに出かけていることを思い出し、「これは話のネタになるぞ」くらいの軽いノリでした。しかし実際に紫電改を見て、慰霊碑と桜を見つけて...とやっていると、不思議なもので真剣になって考えてしまいます。
軽薄な動機で足を運ぶ事に意味があるのかと思う人いるかもしれません。以前であれば、「薄くても関心を持ってもらう事に意味がある」と答えたと思います。図らずもダークツーリズムを体験した今の私は、「その動機が軽薄なものであれ、実際に足を運べば展示を見て何かを感じ、考えずにはいられないものだ」と答えるでしょう。
偶然の出来事でしたが、とても価値のある体験だったと思います。