面白かったのですが、冗長だったので要約しました。
デレズィウィズは、エリート大学の不透明な入試方法について議論を持ちかけた。という点では評価できる。しかし、世俗的な成功や知力を軽視し、自由はとにかく素晴らしいとする安易な姿勢は、その原因となっている病を診断し、処方箋を提供するにはお粗末に過ぎる。
ブランド力のない大学がセール品なのは事実だが、アイビーリーグで学ぶこと、卒業することで得られる高い収入その他のメリットを考えれば、本当のセール品は難関大学の方である(奨学金が充実しているため、金銭面でも安くなる場合も多い)
大学入試の再考の前に「大学教育のゴールとは何なのか」を定義する必要があるが、このことについてまとまったことを言える人はいないし、彼の意見はその典型である。
大学教育のゴールとは何なのか
【第一の本質】教養ある人を育てる
- 130億年もの長い地球の歴史について知っている
- 農業時代から現代までの人間の歴史の時間軸について把握している
- 多様な人種や文化についての理解がある
- 人類が世界を理解するために作り上げた、主要な信念や価値観について理解している
- 人類史を有力な情報源として活用できる
- 民主政治と法の背景にある原理を知っている
- この世の物理世界と生物世界を司る基本的な法則について理解している
- 人間の身体と脳の仕組みを理解している
- フィクションやアートの世界を、美の追求を促してくれる源として、また人間としての条件の原動力することができる
【第二の本質】合理性の習慣を身につける
- 複雑なアイディアを簡潔な文やスピーチにして表現できる
- 客観性のある知識を貴重な産物として感謝できる
- 入念に調査された事実を、迷信、噂、世間一般の通説と見分けられる
- 誤謬やバイアスを回避しながら、論理的に推論し、統計的に物事を考えることができる
- 魔法のようにではなく、因果的に考えることができる
- 因果関係を、相関関係や偶然と混同しない事がどれほど難しいか知っている
- 人間の(特に自分自身の)弱さを知っている
- 自分に同意しない人を、馬鹿者や悪魔扱いしない
- 脅迫や非難によってではなく、説得で人々の考えを変るような価値観を是とする
彼の「中等教育後の質の高い教育とは、どんな国民であろうと、利益があるのなら公的に利用可能であるべきだ」という言い分には心から賛同する。しかし、人は生まれつきの知性、抽象的な事象への趣向などの点において違う。より頭のいい学生を選別し受け入れる必要はある。
難関大学が存在すべき理由は、第一の本質、第二の本質について教えること、それを身につけられるような環境を提供することであり、本当の問いは「アイビーリーグはどれだけその任務を果たしているか?」である。
ハーバード大学は、難関大学の任務を果たせていない
【40年ハーバード大学にいて驚いたこと】
- 人物重視の選考を続けていること
- 新米教員は最初に「ハーバードは世界における未来の学問ではなく、未来のリーダーを鍛え上げる」と伝えられる(課外活動、人種、寄付金、親がハーバード出身かどうか、といった選抜基準の正当化)
- 頭のいい学生と博識な教授、最高の図書館に貴重な資料のマッチングのメリットは明確であるにも関わらす、学業成績で選抜される学生は10%(5%とも)
- ファゴットを吹ける能力や、ラクロスができることが入試で考慮されるのは、退屈なやつを選んでしまう恐怖からくると思われる。「20世紀の人物重視の入試は、ユダヤ人の数を制限するために設計されていた。いまではアジア人を排除する口実として使われている」ともいわれ、筋が悪い
- 「慈善的な課外活動を行えば道徳的教訓を得られるのだから、選考の条件に含めてもOK」という理屈は説得力に欠ける
- 学生が授業に全然出席しないこと
- 学生は課外活動で忙しい(ほとんどはダンスや演劇、音楽、音楽、音楽といったレクリエーションのようなもの)
- その理由は反知性的な考えにあるが、学生に限ったことではなく、教員もおなじである。学部長からは、大きなパーティの日に中間試験を設定するな。などと言われる
- 3.専門知識を持った他大学の卒業生よりも高い給与を得ること
- アイビーリーグの学位は知能と自立の資格のように扱われている
- 教育などたかが知れている
- アイビーリーグ卒業生は名声のために使える
弊害と解決策
このような現状は、10代の若者と母親たちを経歴欄を埋めるための課外活動に走らせる。サマーキャンプ会場のそばにある、素晴らしい研究施設は見向きもされない。25万ドルという生涯賃金を得られるパスポートとなった卒業証書を得るために、家族ぐるみで不合理な入学試験に挑む家族を増やしている。企業はブランド力のない大学にいる優秀な卒業生を見落とすことで損をしている。この無駄で不公平なシステムを修理するためには、標準学力テストを使えばよい。教育に投資できる金持ちを優遇することになるという反論は、すべて間違いであることが研究で証明されている。少なくとも人物重視の選考よりマシなことは明らかである。
デレズィウィズは民主主義(アイビーリーグの家族の収入の分布が、国全体としての分布と等しくなるような世界)を目指すべきだと結論づけているが、富と適性能力との相関がゼロでない限りは不可能か、望ましくない。
現在のシステムが不公平で有害であるとの彼の主張は正しい。 アイビーリーグを立て直すことができるのは、標準学力テストによる選考だけだ。
元記事
ハーバード大教授「崩壊したアイビーリーグを立て直せるのは学力テストだけ」